物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

映画「アデル、ブルーは熱い色」をメンバーで語る

カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した話題作。ピッピのメンバーはどう見たのか? 居酒屋でみんなで話したことを文字におこしてみました。かたちを整えて、冊子「ピッピのくつした」最新号に載せる予定です。

この後の編集会議は、6月27日、7月1日、公民館の団体活動コーナーで(お金がないので)行います。

6月11日は、アンデルセン雪の女王」(午前)と、綿矢りさ「亜美ちゃんは美人」(午後)の読書会もあります。

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――この映画、ネタバレしても問題ないですよね。あらすじを簡単に説明すると、教師を目ざしている高校生のアデルが画家をめざす美大生エマにひと目惚れ、その愛が成就して破局を迎えるまでの物語です。

H「3時間の映画が、そんなに簡単に説明できちゃうのかぁ」

――いや、原題はLA VIE D’ADELE CHAPTRES 1 ET 2だから、アデルの生涯 1章と2章ということですね。アデルの人生はこれから色々に変化していく、その初期の物語ということなのでしょう。

T「あのね、17歳の女子高生アデルにとって、美大生エマとの恋愛は、最初の体験なんですよね。エマに一途で、他が見えないのよ。こういうことって昔経験してきたのでわかるけど(笑)、うまくいかないんですよ。恋愛にも練習が有効。だから、アデルはこの後、別の恋愛をすることになると思います。相手も同性とは限らないし…」

――言い忘れていましたが、アデルとエマは女性同士のカップルです。私は見る前は、もっと性的マイノリティの問題がクローズアップされる映画かと思っていたんですけれど、純粋な恋愛が淡々と描かれている作品でした。

N「まるでドキュメンタリーのようでした。普段、娯楽映画を見ることが多いので、すごく新鮮でした。演技だけれど、いや、これ、本当だよなって思える。本当に泣いて鼻水出しているのが接写だからわかるし。日本人だったらかっこつけて演技できないと思う」

H「なんか原作の漫画では違う名前だったのに、女優さんの本名のアデルに役名を変えたらしいですよね。監督はその女優さんと一緒に食事をして、この人しかいないって思ったとどこかで聞きました。アデルが食べるシーンって多いよね。ホントよく食べるし、エネルギッシュ。…ところで、皆さん、焼き鳥頼みません?」

W「アデルは骨や皮まで全部食べ尽くすんですよ。でも、労働者階級で牡蠣を食べたことがなかったから、苦手だと思いこんでいた。エマにすすめられて食べて、おいしいって思うんですよね。でも、文章を書くことをすすめられたときは尻込みしてしまう」

N「自分が本当に何をしたいかということは、なかなかわからないものです。それがわかれば、もっと自由になれるし、希望が持てるのかもしれないけど。特に若いときには、なかなか自信が持てませんよね」

W「家事もいいけれど、本当に好きなことをしなさいと言われるんですよね。なんだか、同じ女性として身につまされました。アデルは日本的な女性だなと思いました。…あ、大丈夫です、サラダは自分でとりますから」

T「私たちのメンバーでも基本的に表現をする人と表現をしない人の間に違いがあるような気がするんですよ。それはどうしようもなくて、それと同じ違いじゃないかなぁ」

――う~ん、表現活動をするということと自分の意見を持つということは、また別かもしれないですけど…。ただ、この映画で、労働者階級のアデルと知識階級のエマという対比はありますよね。その違いはどう思います?

M「自分が本当にやりたいことをしようとしてどこまでも向上心を持つエマとエマの属する階級、それに対して、諦めて、ただ安定だけを求めているように見えてしまうアデルとアデルの階級という印象は持ちますよね。同性愛についても、エマが両親や友人にオープンにしているのと反対に、アデルは両親にも職場の同僚にも隠し続けます」

――高校時代にクラスメートにばれてトラブルになるシーンがありますよね。階級によって価値観の違いは大きいのでしょうかね。

M「でも、アデルはすごく正直だと思うんです。それだけでなく、階級に縛られていようと、最終的には自分が本当にしたいことをしようとするんじゃないかな。勇気がありますからね。アデルという名前の意味は何でしたっけ、ええと、正義だ」

――私がつい泣けてしまったのは高校生のアデルがクラスメートたちと労働者のデモに参加するところなんです。アデルは、親に教えられなかったことも学校で教わった、と言うんです。それを子どもたちにも伝えたいから教師になりたいというのはすごくわかる。移民を積極的に受け入れているフランスでは、教育はすごく大事みたいね。

H「教育と言えば、アデルの高校の授業の質の高さには驚きました。暗記するのではなくて、考えることがメインという感じでした。哲学のレポートも重要みたいでしたし。でも、労働者階級のアデルの親は、こんなのは形式だけだ、みたいなことを言う」

――アデルが先生になって、一年生の子どもたちを教えるシーンもありましたね。

T「日本のように大きなマスに字を書くようなことはせず、低学年からインクできちんと書く訓練をするんですって」

――ひとつ思うのは、もしもアデルが自分の階級の文化についてエマにきちんと言葉で説明できていたら、二人は別れることにはならなかったんじゃないかなぁって。

T「そういう大きな視野で世界を見られるようになったら、アデルは変われるんじゃないかな。そうやってだんだん大人になるものだし、女性にとってはすごく大事な体験なのかも。…皆さん、飲み物おかわりしない?」

――するする。そう考えると、アデルは多くを学んだのでしょうね。それを見ている私たちも学んでいるということですかね。