物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

チェーホフ「妻」

意識しているわけじゃないのですが、なぜかロシアブームが続いています。今日はチェーホフの短編「妻」を読みました。これ、先日観た映画『雪の轍』(2014年カンヌ映画祭)のベースになっている小説なんです。

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雪の轍(わだち) - 物語とワークショップ

物語の前に、私が読んだのは、神西清訳の岩波文庫『決闘・妻』です。この本、1936年に発行されて以来そのままの形で長いこと出版されていたようです。いつまで出版されていたのだろう? 私の手にとったものは90年14刷でした。

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昭和11年と言えば、二・二六事件があり、子どもの頃から働かないと食べていけなかった私の父が生まれた年で、今とは違った異常な時代というイメージを持っていたのですけれど。

訳者による解題のページの最後に昭和十一年初夏とさらりと書かれていました。文字は旧字体ではありますけれど、書かれていることにまったく古さが感じられないことにびっくりしてしまいました。今、時代が変わり目だから、そう感じるのでしょうかね…。

さて、「妻」という小説。

小説は更に古く、チェーホフによって1891年に書かれた作品です。主人公パーヴェル・アンドレーヴィチは46歳、妻ナターリヤ・ガヴリーロヴナは27歳という年の差カップル。結婚7年目ですが、近年、家の1階と2階に分かれて家庭内別居状態です。

冒頭で、パーヴェルは女医補から村の飢民に寄付を促す手紙をもらいます。全財産を売却してトムスク県に移住するはずだったのがたどりつけず戻ってきてしまった農民たちを救ってほしいと。

このあたりの設定やここから始まるストーリーは、映画『雪の轍』とかなり重なります。夫婦で辛辣なやりとりをするところも同じです。

夫婦のすれ違いの中、たとえば、夫はこう言います。

「僕は自由を上げるよ。出て行って、誰なりと好きな人を愛し給え。……離婚だってして上げるさ。」

妻は夫に言います。

「……あなたの悪いのは、あなたが年寄りで私が若いいことや、自由になったら私がほかの男と恋ができると云うことじゃなくて、あなたが難しい方で、エゴイストで、人間嫌いだからですわ。」

さらに言います。

「あなたは御立派な教養も教育もおありで、とても潔白で真直ぐで、ちゃんとした主義をお持ちですけれど、それがみんな、何処でもあなたのいらっしゃるところへは、所嫌わず、一種むっとする空気や厭迫の感じや、何かしらとても人の気を悪くするような、見下げるようなものを、持っていらっしゃる結果になるのですわ」

映画の舞台はトルコになっていて、日本人は夫婦でこんな議論ができないだろう、みたいなことを言われていたようでしたが、もとになった物語は1891年のロシアで書かれているのですよね。