物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

「こちらあみ子」読書会

12月22日(金)の午後は、今村夏子さんの小説『こちらあみ子』の読書会をしました。今回この本を取り上げたのには、理由がありました。

ある人がたまたまこの本を読んで「とても勇気づけられた」と感想を言っていたのです。ところが、それを聞いた別の人が読んだところ、苦しくて夜眠れなくなってしまったのだそうです。その後、二人であれこれ話したそうなのですが、どうも話がかみ合わないと相談を受けました。こういうときこそ、読書会でとりあげるべきかもしれません。

というわけで、眠れなくなってしまったかたにレポーターを頼み、簡単に発表していただいたのちにディスカッション。

この小説には、何か軽度な障害をもっているらしい〈あみ子〉が家族や周囲と様々な辛い摩擦を経験していったのちに何かを学んで別の境地に達したということが書かれています。それも、一般的と思われる人の視点から他者としてのあみ子が語られるのではなくて、あみ子の目で世界が語られていくのです。

そうだとしても、著者は外側視点を持っているので、あみ子の内側視点との接触面によって物語の輪郭がみごとに描かれていきます。

この日の参加者は十数名でしたが、ほとんどのかたがあみ子の内側の感覚と一般的な外側の感覚をどちらも少しずつ理解して、それが一致しないことにすっきりしない気持ちをもたれたようです。

でも、まあ、現実ってそういうものですよね。自分の価値観と一般の価値観は一致しないことが多いと思うんです。そこをどうやって折り合っていくか、私たちはいつも悩んでいるような気がします。

さて、この本を読んで夜眠れなくなってしまったかたは、どう読んだか?

完全にあみ子視点で読まれたらしく、家族を含む周囲の人々がどうしてここまであみ子の気持ちをくんでくれないのかと憤りを感じたそうです。そういう視点で読むと、周囲の人すべてが悪人に思えるでしょうね。

すっきりしたかたはどうしてすっきりしたのか?

この内側と外側の衝突が、自分の中で起こっていたことに気づかれたようです。一般の側に立とうとする自分があみ子的自分を否定して押し込めていたのだと。その構造に気づいて楽になったのだそうです。

また、このお二人の他に、あみ子視点をまったく考えずに外部視点で読まれたかたもいました。そうすると、ホームドラマをあみ子の視点でたどっていくことになり、家族が崩壊していく様子をリアルに感じられたそうです。

物語って、面白いですね。