物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

春にして君を離れ アガサ・クリスティ

私たちのサークルメンバーでお茶など飲んで雑談するとき、最近話題になるのが〈思春期の子育て〉と〈自分の老化〉なんです。そん流れで、ミズタマさんに貸してもらった本。

「春にして君を離れ」アガサ・クリスティ中村妙子訳 ハヤカワ文庫 です。

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主人公のジョーンは40代後半の主婦。娘2人と息子1人、夫は弁護士のロドニーです。物語は、若くしてバグダッドに嫁いでしまった末娘の病気見舞いに行った帰り、偶然、女学院の頃の同級生と会ったことから始まります。

いつまでも若々しいジョーンと違って、すっかり老け込んだ友人を、気の毒に、と思います。恵まれた生活わしているジョーンですが、毎日が忙しくてたまらないのよ、と訴えます。一週間くらい何もせずにのんびり過ごしたいものだと。

「自分自身について、これまで気がつかなかったことなんてあるものかしら?」

悪天候から鉄道宿泊所に足止めをくってしまい、それが現実となるのです。殺風景な砂漠で、他に泊まっている人もなく、持ってきた本も読み終わってしまいます。

何もすることがなく、時間にも追われていないとき、過去の出来事が思い出され、関連することが次々現れてくることってありますよね。あんな感じ。幸せな人生を思い出すつもりが、繰り返される場面の中で、無意識に見ないようにしてきたことが少しずつ浮かび上がってきてしまうのです。

こういう、きれいごとばかり見て真実を見ないという人というのは多いと思います。それは色々なところで問題を引き起こすのだけれど、更にそれを見ないのですよね。

アガサ・クリスティの手で、きれいにとりつくろったはずのジョーンが身ぐるみはがされていく様子、おみごととしか言えませんでした。すごい作品です。

 

この本、私があまりに面白そうに読んでいたせいか、うちの夫が読みたいと騒ぐので、図書館でもう一冊借りてきました。うちの夫には、主人公ジョーンだけでなくジョーンの夫が共犯者に見えたようですよ。

まあ、確かに、似た者同士ではあります。というより、夫ロドニーは優しいけれど心が弱い人のように思えました。でも、勇気が大事なことだとわかっているし、勇気のある人を尊敬している。だから、子育てではそれほど踏み外さないし、女性の外見より中身に惹かれてしまうのでしょうね。

夫ロドニーは、そういう自分を肯定するために、ジョーンのような妻が必要だったのかもしれないなと思いました。

それにしても、アガサ・クリスティはさすがです。子どもたちがほぼ育ち上がって、そろそろ自分のやるべき仕事が終わり、老化も始まるこの時期に、人生を変えるチャンスがやってくるということにも妙に納得しました。

メンバーの皆さまも頑張って下さい。