物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

ペスト

緊急事態宣言下、私のメインの仕事は休むことができないできないものなのでほぼ今まで通り。そのせいかもしれませんが、余暇を散歩と読書に費やすようになって、実はとても充実しています。
もともと散歩はよくするのですが、街中を避けて自然の中を歩くようになると新しい発見もあって面白いです。
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昨日歩いた小道に沿って群生していた可憐な花、松波草というのですね。
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蟻地獄マンションもありました。そういえば昔、子どもが教えてくれたなぁ。
そして、読書。ついにこれを読みました。
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最初は誰が語り手なのか不明。漠として読者としての立ち位置が定まらず読みにくかったのですが、途中で構造を明かす仕組みだったのですね。
まず個人的に気になったのは、非常事態に宗教がどれくらい心の支えになるのかということ。現在のコロナ状況でもどうもひっかかるのですよね。やはり科学と対立するかたちの宗教の影は薄くなっていかざるをえないのかなと。
物語の中で印象的だったのはパヌルー司祭の言うことが微妙に変わっていくところ。そして、変わりきれないところ。
ただ、主人公はベルナール・リウーという人。物語はどこにも流されず、この医師の視点でドライに語られていくのです。
医師はあえて、ヒロイズムは問題ではないと言います。というより積極的に「美しい行為に過大の重要さを認めることは、結局、間接の力強い賛辞を悪にささげることになるなると、信じたいのである」と思っている。
ああ、さすが『異邦人』のカミュだなと。
医師は、ペストと戦う唯一の方法は「誠実さ」だと言うのですよね。今がコロナ渦中でなかったら、スルーしていたかもしれませんが、様々な情報シャワーを日々浴びている状況下では、これは胸に響きました。
一般人としては、素人の感情論にながされず、専門知識のある人のその専門分野についての見解、誠実な言葉に耳を傾けるべきではないですかね。
主人公の医師は、ペストと戦う唯一の方法は誠実さ、そして自分の職務を果たすことだと言います。
患者や濃厚接触者の受け入れ先についてなど事務作業を買って出るグランという人が出てきます。彼は非正規で働いている公務員ですが、ライフワークとしてひとつの小説を何度も書き直しています。彼は医師に「よかった、よかった」と言います。医師は「?」
「よかったですよ、私には自分の仕事があって」これはボランティアのことでも、官吏の仕事でもなく、ライフワークのことを言っています。
医師は即座に理解し「それはひとつの強みですね」と返します。
そういうことが、人生では一番大事なのかもしれません。