物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

あちらの世界~ハニカム狂

 年のせいか季節の激変のせいかここ数日足腰が痛くて、休んでいることが多かったので読書がすすみました。

 まず読んだのが堀辰雄「風立ちぬ」です。

 婚約者と2人でサナトリウムに入る話です。この時代の結核というのは、国民病ですからね…。ほとんど掘辰雄の分身に近い主人公もきっと結核なのでしょう。だけど、そういう結核が死の病だということを婚約者節子の中に美しいものとして見ているところ、たまたま自分が体調も悪いせいかすごく怖い。あちらの世界に引きずり込まれるというか、底なし沼からは絶対出られないというような恐ろしい感覚を味わいました。

 なぜか、死刑囚を実際に取材して書いたカポーティの『冷血』を思い出しました。

 で、少しずつ読んでいたジョン・チーヴァー著『橋の上の天使』( 川本三郎訳・河出書房新社1992)を手にとったんです。

 チーヴァーはアメリカでは評価の高い作家らしいのですが、最近読んだレイモンド・カーヴァーの伝記には飲んだくれの危ない人として登場していました。その飲んだくれぶりを思わせる作品もあるんですけどね。

 今回は、収録作から「ひとりだけのハードル・レース」「ライソン夫妻の秘密」を読みました。面白かった。チーヴァーは郊外で生活するもう若くない中流階級者の生活を書いていて、この2作もそう。そのせいか、やはりあちらの世界の影がちらちらと見えています。ただ、確実に少しずつ蝕まれていくというよりも、ついうっかりという感じ。これがすごくリアルに感じられます。

 更に、藤野可織さんの『パトロネ』を読んでみました。

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『爪と目』よりも、こちらのほうが私は好きだな。独り暮らししていた姉、同じ大学に妹が通うことになって一緒に暮らすところから始まる。

 あちらの世界にはうっかり行ってしまうだけじゃなく、もうすぐ隣にありますよ、という感じ。本当にそんな感じがする。その不安をどうやって解消したらいいのか悩むほど。

 というわけで、あちらの世界を覗こうというわけではないのですが、今日はこれから下の子どもと下北沢に、演劇を観に行ってきます。少年王者館の『ハニカム狂』です。ピッピのくつした「まちだ演劇プロジェクト」のメンバーでたまには同じものを観て勉強しようということになりまして。ただ、皆さん予定が合わなくて、行く日はバラバラ。

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 …で、芝居に行ってきました~。

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 思い出せば、少年王者館を最初に観たのは1990年の『星ノ天狗』でした。直前に新宿梁山泊の『人魚伝説』を上野の不忍池に建てられたテントで観てもいて、このふたつが全然違っているところが面白かった。

 きっかけは、たまたま歩いていてチラシをもらったの。その最初の衝撃というのは忘れられません。ただ、あの頃は今とはまったく時代が違っていたし、私も若くて…。芝居はその後5年くらい、あれこれ観まくりました。やたらと暴力シーンの続く東京アンダーグラウンドにもはまって、毎回の公演を心待ちにしてました。

 私が少年王者館を面白いと思っていたところは、見える世界と見える世界の間にある不可視的な個人的世界を行間で表現する、みたいなところだったんじゃないかな。…なんかうまく説明できないけど、そのネガフィルムみたいな世界が感覚にフィットして心地よかったんです。

 でも、『ハニカム狂』はそうではなくて、ポジな世界のような気がしました。見えないところを見せるのではなくて、そのものを見せる。個人的ではなくて社会的。私はハチを表現しているダンスに、鳥肌がたつくらい感動しましたが、考えてみれば、これもポジな表現ですね。(実は、このところ、私の目当ては池田遼氏のダンスなんでした。)

 お客さんには、高校演劇部の人たちもいたし、子どもたちがやたら面白がっていたのに驚きました。我が家でも、芝居について子どもたちがあーだこーだと言って騒いでました。若い人はやっぱり元気だな。

 子どもたちが言うには、単純に話がわかりやすかったと。暴力シーンも良かったと。『ハニカム狂』ってハチの巣の話なんだけど、そこにハエが混ざっているんですよね。ハエ役は唐組にいた丸山厚人さん。初日に見た上の子どもが、そのコラボ(場違い加減)がすっごく面白かったーと言ってました。

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 確かに、今は、こちらの世界(現実)をもっと見たほうがいのかもしれません。

 皆さんも感想など教えて下さい。(8/28追記)