物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

アリス・マンロー『イラクサ』

 雨の日曜日、すっかり読書三昧です。

まず、ロシアの作家ウラジーミル・ソローキンが今月来日したとネットで知って、『愛』という短篇集を読んでみました。なんか、芥川賞作家の藤野可織さんと対談をしたみたいですね。確かに、作風というかタッチが似ていなくはないですけど、うーん、そうなのか~とざわざわしました。

 

今、読んでいるのが、先日ノーベル文学賞を受賞したばかりの、カナダの作家アリス・マンロー『イラクサという短篇集。ノーベル賞受賞の理由が「現代の短編小説の名手である」ということだったので、これはどういうことなんだろうと興味を持ちまして。

離婚経験があるそうですが、読んでいて、そういう色々な人生経験が創作に活かされているって感じます。この本の装丁と内容ははだいぶ違う印象です。

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実は、まだ最初の2篇しか読んでいませんが、短篇でここまで書けるのだなぁ、ああ、これが人生というものなんだなぁとため息しきり。女性の描かれ方がハンパじゃないのです。マンローさんにしかできない心尽くしの手料理をいただき、「おいしゅうございます」と率直に言うしかないです。

たとえば、最初の「恋占い」という短篇では、まだ性体験をするには早い二人の女の子が心身ともに不安定で、自分を持て余しているところなどがすごくうまく表現されている。国が違っても、普遍的なところを描いてくれると、こんなにも実感できるものなのなんだなぁと。

その女の子たち、あばたのある顔を持つお手伝いさんが恋をしていることを知って、ハンサムの雇い主からの嘘のラブレターを書いて渡すんです。いたずらのつもりが、微妙な年齢の女の子が、ついのめり込んで本気でラブレターを書いてしまう。

ふたつ目の「浮橋」では、夫よりずっと若い妻が、重い病気を患って他人とつきあうのも億劫な身体感覚が描かれていきます。それが、ほんのちょっとした出会いから、世界は思わぬ方向に展開流れる。彼女の感じ方も変わっていきます。最後の場面はなんとも美しい。

短篇なのに、世界が奥行きや、深さを感じさせてくれる。世界が大きいんだなぁと思うことってやっぱり幸せにつながるんだなぁと思いました。

イラクサ』は、この後の作品も楽しみです。

 

ウラジーミル・ソローキン『愛』は予想はしていたんですが、暴力やエロスやスカトロジー満載、乾いたところは極端に乾いた作品ばかりで、すごいなぁ、元気だなぁということにため息が出ました。平行して読むのはどうかという気もしますが…

小さなきれいな部屋で常に水分補給されるような日本にいると、なかなかここまで飛躍できません。ドストエフスキーの訳者の亀井郁夫氏が翻訳するんだなぁということにもちょっとびっくり。

暴力的なカラーの強い作品群の中、私は女教師が年若い男子生徒に性の手ほどきをしてしまうという一篇が一番印象に残りました(笑。これは、男性から読むとショッキングなのか、そのへんに興味がありますが、女性の私は、微笑ましい作品に思えて、こういうことを男性が書くことに興味をそそられました。

ただ、手元にもう一作ソローキンの『青い脂』があるのですが、パワーがなくて、なかなか開くことができずに眺めています…。

 

岩城けい『さよなら、オレンジ』も読みました。オーストラリア在住の作家の太宰治賞受賞作です。舞台はオーストラリア、アフリカ難民の女性と日系の女性、それからイタリア人女性などの関わりを描いた作品。

作者が翻訳を仕事のされている人なので、世界言語である英語と、様々な国の母語の両方を持つ人の関わりに焦点をあてているのでしょう。狭い日本から一歩出ているところが評価されたのかなと。

ただ、一方で、生まれた国や姿形は違っても内面がとてもよく似た女性たちの関わりを描いた作品という気はしました。むしろ日本的だなぁと。展開もYA的で、ソローキンのように読んでいて怪我をすることはなさそう。