物語とワークショップ

ピッピのくつした/まちだ演劇プロジェクト

2月『流行感冒』読書会の報告

 2月25日(金)はコロナ禍に読んでおきたい本ということで『流行感冒』をとりあげました。今から100年前のスペイン風邪が流行した時代の家族を描いたごく短い小説。作者の家族に実際に起こった出来事を題材に書いた私小説だと思います。

志賀直哉と言えば、私小説私小説と言うと、かつてあまりよろしくないような言われ方がされたこともありましたが、どうなのでしようね。

(最近、個人的には私小説というのが小説の基本形なのではないかと感じられます。実際に書いてみると、とても難しいですから。ネット情報が溢れる時代だからこそ余計に思うのかもしれませんが、プライベートな体験を自分の見方に溺れず常にクリアな視点できっちり書くには、かなりの精神力と技術が必要なのではないかと。)

第一子を亡くした経験を持つ若い夫婦、特に語り手である父親は幼い娘が感染することを何よりも恐れています。過保護になりすぎているのではないかと周囲の農家の子供たちの育ちを見て不安になったりもします。妻も多少批判しますが、やはり一緒に甘やかしてしまうようです。やはり、この夫婦には第一子を亡くした痛みが大きいのでしょう。スペイン風邪の脅威もかなりのものです。

スペイン風邪は1918年3月に第1波、8月に第2派、翌19年1月第3派があったらしく、死世界人口が18から19億人の時代に5億人が感染し、1億人を越える人が亡くなったのではないかと言われています。コロナと似ていますが、若い人の方がかかりやすく、亡くなった大半は5歳以下だったよう。親としては心配でたまりませんよね。

この家庭では若い女中を2人雇っています。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を先月とりあげたばかりなので、私は階級が気になってしまったのですが、この夫婦は使用人として彼女たちを格下と扱うより、結婚前の若い娘を預かる責任も感じているようです。娘たちにとっては花嫁修業、学びでもあったのでしょう。

そういった娘たちは村に年一回やってくる芝居に行くことも楽しみにしていますが、パンデミックを理由に主人はこれを禁じます。女中が感染して、それが子供にうつることを恐れているのです。ひとりは言いつけに従いますが、もうひとりは嘘をついて出かけてしまうのです。いや、あくまでも出かけていないと言います。

ここで主人が何を思うか、どう考えるか、考えようとするか、どう行動するか、そして何が起こるか、それによって彼の考えがどう変わるかがこの小説の肝です。意外に動きがあるのですが、志賀直哉の文章はさらっと読めてしまいます。

小説の醍醐味は、主人公の意識が変化することで、それを読む人の気持ちも柔軟に変化することだと思いますが、それが受け入れがたいことはよくあります。でも、志賀直哉のように、書き手の自己肯定感が強く何事も真っすぐ書かれていると、読み手はその変化に気が付かないくらいあっさり飲み込んでしまうのですよね。

 

原作に少し肉付けした本木雅弘主演のNHKドラマを観ていた人もいたのでそれとの比較もし、以前『和解』を読んで志賀直哉の小説作法に注目していた人の考察もあり、短い作品ですが思った以上に深読みすることになりました。

 

 また、たまたま仕事で長期ロシアに行かれていた方が参加されたので、ロシアのウクライナ侵攻のニュースについての話にもなりました。場の空気に流されず、それぞれの意見が言える場があることの大切さを痛感しました。

 

★読書会は毎月第4(金)13時半~(部屋が取れない場合は別の日になります)

参加費500円です。

《このあとの読書会の予定》

4月22日…『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ

5月27日…『待ち伏せティム・オブライエン

6月24日…『地下生活者の手記』ドストエフスキー

7月…『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル

★リフレッシュお茶会(お茶持参)午前10時~12時もあります。参加費無料です。

場所はどちらも町田市民フォーラム3階多目的実習室です。